北欧からのものがたり
スウェーデンの夏至祭と魔法の夜
スウェーデンでは何百年も前から夏至をお祝いしてきました。いつまでも日の沈まないこの時期、人々は花々で飾られたメイポールを作り、歌と踊りを楽しみ、伝統的な夏の料理を囲み、友人や家族と時間を過ごしながら、魔法の宿る長い長い夏の夜を楽しみます。
メイポール
古くは「majstång(マイストン)」と呼ばれていたスウェーデンのメイポール。スウェーデン語で5月を意味する「maj(マイ)」を連想させますが、スウェーデン語の「maj」は、もともと「何かに葉を付ける」こと、もっと現代的な言い方で言うと「何かを飾り付けること」を意味しています。
現在親しまれているメイポールが、木のポールをたっぷりの葉で飾り付けて大きな十字架のような形を作り、2つの大きな花輪を吊して作られることを考えれば、「majstång」という呼び方はまさにぴったりです。
夏至祭の間、人々はメイポールの周りで歌い、踊ります。人数は関係なく、たとえ人が少なくても、多くても、お祝いの踊りは続くのです。
ダンスの定番ソングといえば、カエルのダンスや洗濯の日の歌、そして凍った池の周りでこそこそと何かをたくらむキツネの歌も有名。振りを揃えて踊るフォークダンスも欠かせません。
夏至の夜に宿る魔法
夏至祭の前日である「ミッドサマーイブ」の夜には、かつて魔法が宿ると信じられていました。現在は、太陽がいつまでも沈まないこと自体を魔法のような日だとして祝い、家族や友人と時間を過ごしたり、夜中に泳ぎに行って静寂の中で自然を感じたりしてこの夜を楽しみます。
しかし数百年前、この魔法の夜には違った意味合いがありました。この日は、農民たちが作物の成長と豊かな実りを祈る日だったのです。少女たちは静かに花を摘み、未来の結婚相手に夢で会いたいと願いました。また、露で濡れた草原の中を転がれば、強くて健康な身体になれるとも信じられていました。
いくつかの伝統は現代にも残っており、夜に花を摘むと未来の結婚相手の夢が見られるという言い伝えもそのひとつです。信じるか信じないかは別として、こうした伝統が明るい夏至の夜を楽しむ素敵な方法であることは確か。きっと今後も受け継がれていくことでしょう。
友人と「ヌッベ」を楽しむ
クリスマスが家族で楽しむイベントなら、「ミッドサマーイブ」は友人と楽しむ日と言えるでしょう。この日は人々が集まって、いろいろな種類のニシンの酢漬け、新じゃが、ネギを入れたサワークリームなどを一緒に食べます。そして、忘れてはいけないのが「ヌッベ」です。
「ヌッベ」は、「スナップス」とも呼ばれるアルコール度数の高いスウェーデンの蒸留酒。原料にはじゃがいもが使われ、冷やして食卓に出されます。現在ヌッベには多くの種類があり、ほのかにレモンとエルダーフラワーが香るものから、ヨモギの苦みが感じられるものまで、さまざまなフレーバーを楽しめます。また、ミッドサマーイブのお祝いには歌が欠かせません。ヌッベを飲む前には必ず短い歌を歌ったり、ときには自分が経験したエピソードを歌詞に入れてアレンジしたりします。歌を歌い終わったら小さなショットグラスを掲げ、「SKÅL(スコール)」と言って乾杯します。夏至の長い夜は、こうしていつまでも続いていくのです。